微分

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瞬間変化率

最初のイメージの記事で、微分というのは局所的な関数の振る舞いを解析する手法であると書いた。では具体的にはどのように考えていくのだろうか。これを求めるために、最初は平均変化率というものを考えていこう。

ある関数 f(x) について、x=a から x=a+h まで値が変化したときの変化率は、 (1)Δ=f(a+h)f(a)a+ha=f(a+h)f(x)h という風に定められる。これは y=f(x) をグラフに書いたときの2点(a,f(a)),(a+h,f(a+h))を結んだ直線の傾きとなっている。これだけだと少し何の意味があるのかわかりにくいが、平均変化率を使って次の等式を作る。 (2)f(a+h)=Δh+f(a)=f(a+h)f(a)hh+f(a) この等式が成り立つのはすぐに分かるだろう。しかし、関数の振る舞いを調べるために必要な重要なことが表れている。(2)はx=aからhだけずらした f の値を f(a) を元に計算している。しかし今は見てもわかるようにx=a+hの情報を得るのにその点での情報を使ってしまっているのであまり意味がないように見える。これを解消するために、極限をとってみよう。 (3)limh0f(a+h)f(a)h (2)の問題は2点の情報を使っていたことだ。極限を取ることで2点の情報ではなく、ある1点の情報に集約することができる(厳密には1点とその極近辺の情報)。当然この極限は存在しないこともあるので、今から考えるのは上の極限を定義できるような場合のみである。

微分係数

このように微分についてわかったようなわからないような話をしてきた。ただ、今の考え方だと多変数関数にスムーズに拡張しにくい。微積分のイメージで話したようなことからも少し遠いように見える。同値でよりわかりやすい定義をしてみよう。

関数 f(x) が点x=aで微分可能とは、 (4)f(a+Δa)=f(a)+AΔa+o(Δa)(limΔa0o(Δa)Δa=0) となるような A が存在することである。このとき A をx=aにおける微分係数と呼ぶ。

上のように定義することで、微分が局所的に一次関数で表現する方法であることがよく分かるだろう。(4)の第3項は誤差項で、左辺と右辺の帳尻合わせである。この誤差項に対する条件が括弧の中の式である。(4)で右辺と左辺を等号で結ぶためには誤差項が必須だが、誤差項の条件から Δa が小さければ第3項は無視できるほど小さいので、 (5)f(a+Δa)f(a)+AΔa とできる。実用上この形が最も使いやすいし、実際物理で近似を用いるときにはこの形で使われる。

導関数

上で説明したのは関数の各点について各々考えたものであるが、一々計算するのも面倒である。どうせなら微分可能な区間での微分係数の関数がほしい。そんな要望に応えるのが導関数である。導関数の定義は(3)から拡張して (6)f(x)=dfdx=limh0f(x+h)f(x)h とすればよい。表記の仕方は2通りあり、どちらでも良いが、変数が分かりづらいときはdfdxの方が望ましい。

ちなみに導関数を求めることを関数を微分すると言う。微分可能な関数の重要な性質として、微分可能ならば関数は連続である、というものがある。証明は簡単で、 limh0{f(x+h)f(x)}=limh0f(x+h)f(x)hh=0 このように簡単に連続であることがわかる。ただし連続関数が微分可能とは限らない。

関数のクラス

導関数という新しい関数が登場したが、当然この導関数についても微分可能であれば導関数が考えられる。導関数の導関数についても同様のことが言える。このように微分可能であるかぎり何回でも同じことは考えられて、n回微分して出来た導関数のことを元の関数のn階導関数と言う。これを用いて関数を分類することが可能になる。

まず、定義域で微分可能ではないが連続であるような関数のことをC0と呼ぶ。次にn回微分可能で、かつn階導関数が連続であるような関数のことをCnと言う。nの値が大きいほどその関数は滑らかである。微分には関数の滑らかさを表す指標でもあるのだ。関数の章で紹介した関数は基本的には何度でも微分可能であるので非常に滑らかだと言える。

平均値の定理

ここからはいかにも数学らしい話をしていこう。先に平均値の定理の本文を紹介しよう。

関数f(x)について、開区間(a,b)で微分可能、閉区間[a,b]で連続であるとき、a<c<bとなる c が存在し、 (7)f(b)f(a)ba=f(c) となる。

この定理が教えてくれるのは(7)を満たすような c の存在だけである。存在だけがわかり具体的な形がわからない、というのはやはり数学らしいだろう。ただしこれによりまた新たな事実を証明できることがあるのでバカには出来ない。平均値の定理の証明にはロルの定理と呼ばれる定理が必要であり、平均値の定理自体はこのロルの定理の一般化である。どういうわけか平均値の定理に似た定理はロルの定理を使って証明される。ロルの定理の本文は、

関数f(x)について、開区間(a,b)で微分可能、閉区間[a,b]で連続であり、f(a)=f(b)のとき、a<c<bとなる c が存在し、 (8)f(c)=0 となる。

平均値の定理の証明はぜひ自分の手でやってみてほしい。ヒントはf(x)を使ってうまいことロルの定理を適用できるように新たな関数g(x)を考える。

テイラーの定理

平均値の定理はもっと一般化ができる。テイラーの定理を紹介しよう。

関数f(x)が開区間 I でCn級であり、任意のa,bIに対し、 (9)f(b)=f(a)+f(a)1!(ba)+f(a)2!(ba)2++f(n1)(a)(n1)!(ba)n1+Rn ただし (10)Rn=f(n)(a+θ(ba))n!(ba)n, 0<θ<1 である。高階の微分はダッシュをたくさんつけるわけにも行かないので関数の肩に()をつけて階数を表記する。

テイラーの定理もロルの定理を使えば簡単に証明できるので証明は省略する。このテイラーの定理によってやっと当初やりたかった関数の多項式による近似の可能性を保証できる。(9)について詳しく説明しよう。まず、第n項までで多項式での近似がされ、最後の項でf(b)に一致するように辻褄合わせをしている。このRnのことを剰余項と呼ぶ。先程テイラーの定理によって多項式近似のやり方が分かるといったが、任意の微分可能な関数が必ずしも多項式で近似できるわけではない。というのも剰余項が存在するためである。n を大きくしていってもこの剰余項が小さくなっていくとは限らない。つまり、関数が多項式に近似できるためにはこの剰余項がその他の部分と比較して十分に小さい必要がある。

テイラー展開

先程は多項式による近似の手法であった。その際には剰余項が無視できるほど小さいと書いた。ではこの剰余項の極限が0であったときはどうだろうか。このときには関数をべき乗のみで構成することが可能となる。x=aの周りでこれを行うことをx=a周りのテイラー展開と言う。 (11)f(x)=n=0f(n)(a)n!(xa)n このような数列の無限和のことを級数と呼ぶので、テイラー展開された関数をテイラー級数と呼ぶこともある。

本当は(11)の左辺が任意の x で収束するかは保証されないが、収束する範囲では関数をべき級数で表現できるわけである。微分が如何に強力かわかってもらえただろうか。級数展開までは使わずとも関数の近似は物理でもよく使う。基本的には一次の項までで十分だが、たまに高次の近似が使われるのでテイラーの定理は覚えていて損はないだろう。