前回の記事では数列の極限について考えた。今度は関数の極限を考えよう。数列のときは番号が進んでいくと数列はどんな様子を見せるかというものが極限だったが、関数の場合はもっと自由度が生まれる。変数を無限大にしていったときの様子を考えることはもちろん、負の無限大に向けて進んでいった場合や、ある特定の数に近づいていく場合なども考えられる。例えば、関数 $f(x)=x^2$ が $x=1$ に近づいたときの極限を考えよう。近づく、というのはその値を取ることとは少し違う。実際に値を入れて考えてみよう。$x=1.1$ を代入すると、$f(1.1)=1.1^2=1.21$。$x=1.01$のとき、$f(1.01)=1.0201$。どんどん考えていくと、$f(1.001)=1.002001,f(1.0001)=1.00020001,f(1.00001)=1.0000200001$と、どんどん $1$ に近づいていっているように見える。実際この極限は $1$ であり、 $$ \lim_{x\to 1}f(x)=1 \tag{1} $$ と表記する。どの値に近づいていくかで $\lim$ の下の数字を変えればよく、無限大にしていくならば$\infty$、負の無限大ならば$-\infty$とすれば良い。
今は $1$ より大きい方向から近づけていったが、実は関数の極限を考えるときにはあらゆる近づき方を検証し、全て同じ振る舞いをしなくてはならない。正の無限大に発散するなら、どんな近づき方をしても最終的にそうならなくてはならないし、収束するならばどのように近づいても同じ値に収束しなくてはならない。もし近づき方で異なる振る舞いをした場合は極限が存在しない。独立変数が1つの場合は近づき方が2通りあるので検証は2回行わなくてはならない。先程の例では $f(0.9),f(0.99),f(0.999),\cdots$ のように $1$ より小さい方からも近づいていくことも考えなくてはならない。1次元に限った話ではあるが、このようにある値に正の方向から近づくことや負の方向科あ近づくことを明示的に表す表記の仕方があって、$\displaystyle\lim_{x\to a+0}f(x)$と書けば $a$ に正の方向から近づき、$\displaystyle\lim_{x\to a-0}f(x)$と書けば負の方向から近づくことを示す。
近づき方で振る舞いが変わる例を示そう。$f(x)=[x]$という関数を考える。$[x]$というのは $x$ を超えない最大の整数を取る関数である。この関数について、 $\lim_{x\to 1}$はどうなるだろうか。まずは正の方向から近づくことを考えよう。微小な範囲で考えれば、1より少し大きい程度の数を取って近づいていくので、 $$ \lim_{x\to1+0}f(x)=1\tag{2} $$ である。次に負の方向から近づくことを考えよう。こちらも微小に考えれば1より少し小さい程度の数を取って近づいていくので、 $$ \lim_{x\to1-0}f(x)=0\tag{3} $$ である。(2),(3)を見てもらえばわかるだろうが、近づき方を変えると収束先が変わるのでこの極限は存在しない。
関数の極限も無限大に行くことを考えるならば数列の極限と同じような結果が得られるのではなかろうか。そう思う読者もいるかも知れない。しかし数列と関数では定義域の違いから無限大までの進み方が異なるのだ。前回出てきた実数の連続性に関わるの。まず数列の極限は飛び飛びに無限に置いてある石を拾っていくような感じである。これは自然数が連続ではないためだ。一方関数の極限については無限に長いロープを手繰っていくような感じである。そのため見た目は同じような関数形でも、その極限が異なることがありうる。
例を見ていこう。$a_n=\sin n\pi$ と$f(x)=\sin \pi x$ の2つの極限を考えよう。まず数列の方は、$n$ が自然数であるため、$a_n=0$ となる。従って、 $$ \lim_{n\to \infty}a_n=0 \tag{4} $$ 次に関数の方を考えよう。$x$ は実数であるため、$-1\le f(x)\le 1$ の間を振動している。そのため、$\displaystyle\lim_{x\to \infty}f(x)$ は振動する。このように見た目は同じように見えても数列と関数ではその値のたどり方から極限が異なってくるのだ。ちなみに連続の反対に飛び飛びに値を取るようなことを離散的と言う。
これから極限を扱っていくにおいて知っておくと便利な主要な関数が発散する速さを紹介しておこう。まずべき関数 $x^\alpha$ と指数関数 $a^x,(a\gt0)$ のときを比較すると、指数関数のほうが速く発散する。これはどのように現れるのかというと、 $$ \lim_{x\to\infty}\left(\frac{a^x}{x^\alpha}\right)=\infty \tag{5} $$ となるのである。分子分母を入れ替えると0に収束する。一般に分数型の関数で、分子のほうが収束の速度が速い場合は無限大に発散し、分母のほうが速い場合は0に収束する。
これを踏まえてもっと見ていこう。べき関数の中だけで考えたら、指数は正のみ考えるとすると大きさが大きいほうが発散が速い。$x^2$ と $x$ だったら前者のほうが発散は速い。その他実数の指数でも同じことが言える。
べき関数よりも発散の遅い関数としては対数関数がある。指数が正の場合だが、どんな指数を持つべき関数でも対数関数はその発散の速度で勝ることはない。$\dfrac{x^3}{\log_ax}(a\gt1)$ は見るからに無限大へ発散するだろう。$\dfrac{x^{0.001}}{\log_ax}(a\gt1)$ もにわかには信じがたいかも知れないが非常にゆっくり無限大へと発散する。
指数関数はかなり速く発散していくが、実はこれよりももっと速く発散するものがあり、それが階乗 $\mathbf{n!}$ である。ほんとは階乗は自然数にしか定義できないものだが、これの定義域を実数に広げる方法があり、その関数をGamma関数という。これも階乗の性質を十分備えているので発散は指数関数よりも速い。
極限を求めたくても直接求めることが大変なことがある。しかしはさみうちの原理を使うことで求めやすくなる。ある定数 $a$ に近づくときに収束する場合を考えてみよう。考える関数 $f(x)$ が $a$ を含む適当な区間$x_1\le x \le x_2$で、別の関数 $g_1(x)$ と $g_2(x)$ を使って$g_1(x)\le f(x)\le g_2(x)$という関係が成り立っていたとしよう。そして、$\displaystyle \lim_{x\to a}g_1(x)=\lim_{x\to a}g_2(x)=b$となっているならば、$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=b$が成り立つ。今は関数の例を紹介したが、数列でも同じことは成り立つ。
例を紹介しよう。$\displaystyle\lim_{x\to 0}x\sin\dfrac{1}{x}$について考えよう。そのまま考えようとしても$\sin$の中に発散してしまう項が入っているので計算が難しい。そこではさみうちの原理を使ってみる。まず$\sin\dfrac{1}{x}$について、中の関数形がどんなものでも常に $-1\le\sin\le 1$ が成り立つことから、 $$ -1\le\sin\frac{1}{x}\le1 $$ となる。この各辺に $x$ を掛けると、 $$ -x\le x\sin\frac{1}{x}\le x $$ であり、$\displaystyle\lim_{x\to0}(-x)=\lim_{x\to0}x=0$となることはすぐに分かるだろう。従ってはさみうちの原理により、 $$ \lim_{x\to0}x\sin\frac{1}{x}=0 $$ と求められるのである。
今は収束する極限についてのはさみうちの原理を見てきたが、発散する場合には下から押さえて発散することを示せば良い。$f(x)\ge g(x)$ が成り立ち$\displaystyle\lim_{x\to a}g(x)=\infty$ ならば$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=\infty$ が成り立つということである。状況によって流動的に原理を読み替えて使っていってほしい。
極限を使って関数を分類する枠を作ろう。早速定義を紹介する。関数 $f(x)$ が $x=a$ で連続であるとは、 $$ \lim_{x\to a}f(x)=f(a) $$ が成り立つことである。
上の定義では暗黙的に左辺の極限が存在することを認めている。そのうえでその極限値が右辺に一致する、という定義である。今のはある一点だけの話だったが、定義域全体で連続である場合はその関数は連続関数であるといえる。定義域全部とは言えなくとも、可算無限個の連続でない点を含む場合は区分的に連続といえる。連続である箇所は切れずにつながっている、というイメージだ。この点は実数の連続性に似ている。
例として次の関数を考えてみよう。次の関数は $x=0$ で連続だろうか。 \begin{eqnarray} f(x)= \begin{cases} x^2 &(x\neq0)\\ 3 &(x=0) \end{cases} \end{eqnarray} 定義に帰って考えよう。まず $x\to0$ への極限を考えよう。 \begin{align} \lim_{x\to+0}f(x)=\lim_{x\to+0}x^2=0 \\ \lim_{x\to-0}f(x)=\lim_{x\to-0}x^2=0 \\ \implies \lim_{x\to0}f(x)=0 \end{align} 一方、$f(0)=3$ であるので、$\displaystyle\lim_{x\to0}f(x)\neq f(0)$ となり $f(x)$ は $x=0$ で連続ではない。では次の関数はどうだろうか。 \begin{eqnarray} f(x)= \begin{cases} x\sin\dfrac{1}{x} &(x\neq0)\\ 0 &(x=0) \end{cases} \end{eqnarray} この関数は$x=0$で連続だろうか。こちらも定義に従って考えると、 $$ \lim_{x\to0}f(x)=\lim_{x\to0}x\sin\frac{1}{x}=0 $$ また$f(0)=0$より$\displaystyle\lim_{x\to0}f(x)=f(0)$であるので、この関数は$x=0$で連続である。関数の項で紹介したものは全て定義域で連続であるので安心してほしい。
本文中で出てきた可算無限という言葉。これは無限大を分類する語で、番号付ができる無限大のことである。"可算"というのが数えられる、という意味である。これよりも大きな無限大のことを非可算無限と言うのだが、これは番号をふることのできない無限大のことである。可算無限個で連続でない、ということは点々と連続でない点があるということといえる。もし非可算無限個で不連続だった場合は至るところで連続ではなく、非常に扱いづらい。