前回のイメージで局所的とか番号を触れないとか書いた。しかしその次であるこのページでは「数列」と表題がついている。微積分に全く関係ないように思えるが、実はそうではない。微分や積分を考えるときに極限というものを考える必要がある。これを考えるときに数列を導入するとわかりやすくなる。数列を使うことによって、今までなんとなく使ってきた実数もその性質をよく理解することができる。実数については非常に難解な部分が多いのでとりあえずは扱わないこととする。
数列も一種の写像であり、$\mathbb{N}\to\mathbb{R}$ の写像なのだ。始域が自然数であるため、数列の順番を与えることが可能とある。n番目の数列の要素は $a_n$ のように下付き文字として番号を書くことが多い。数列全体は${a_n}$と書く。
数列の一番はじめの項のことを初項と呼び、一般的な表記は$a_0$と書く。自然数は0から始まるのだ。数列の要素が有限である場合にはその終わりがあり、最後の項を末項と言う。要素が無限である場合には末項は存在しない。その代わり極限を考えることとする。
数列への理解を深めるために、特殊な数列を考えよう。最も簡単なものは各項が変わらないものだが、そんなものはつまらないのでもう少し構造のあるものを考えよう。その中で一番簡単に考えうるのは、隣接する項との差が一定になるような数列だろう。そのような数列を等差数列という。一般形は、 $$ a_n=a_0+nd \tag{1} $$ 初項は良いとして、$d$ を公差と言う。試しにn番目と(n+1)番目の差を調べてみると、 \begin{align} a_{n+1}-a_n&=a_0+(n+1)d-\{a_0+nd\} \\ &=d \end{align} 当然 $d$ は定数なので、隣接する項間の差は一定であることがわかるだろう。
差が一定というものを考えられるならば比が一定であるものも考えられるだろう。隣接する2項の比が一定になるような数列を等比数列と言う。一般項は、 $$ a_n=d^{n}a_0 \tag{2} $$ ここでの $d$ は公比と言う。隣接2項間の比が一定であることを確かめておこう。 \begin{align} \frac{a_{n+1}}{a_n}&=\frac{d^{n+1}a_0}{d^{n}a_0} \\ &=d \end{align} もちろん $d$ で一定である。
上の2つはとても基本的な数列であり、当然これら全ての数列が網羅されているわけではない。後もう一つ特殊なものを上げるとすれば、階差数列というものである。これはある数列$\{a_n\}$の2項間の差を取った数列$\{b_n\}$が考えられて、この$\{b_n\}$が階差数列である。この階差数列を考えることによって元々の数列の性質がわかりやすくなったりするのだ。そのままだと規則性が分かりづらい数列も、階差数列が等差数列になっていたり、階差数列の階差数列を取ってやると等比数列になっていたりするので面白い。
ここからは一般項を与えられず、数列の幾つかの項間に成り立つ等式から数列の性質を見ていく方法を紹介していこう。まず何項間に成り立つ等式のことを漸化式と呼ぶ。例えば等差数列の場合に成り立つ漸化式は $$ a_{n+1}-a_n=d $$ である。前に説明した2項間の差が一定ということを表していることがわかるだろう。
漸化式になれるためにも少し具体例を見ていこう。次のような漸化式を考える。 $$ a_{n+1}+2a_n=6 \tag{3} $$ 先程の等差数列の漸化式に非常によく似ている。しかし $a_n$ の係数が $-1$ ではない。こうなると簡単には行かない。ここで少し天下り的ではあるが、次のように変形できつことを期待する。 $$ a_{n+1}-p=-2(a_n-p) \tag{4} $$ この式を変形すると、 $$ a_{n+1}+2a_n=p+2p \tag{5} $$ (3)と(5)を比較すると、 \begin{align} p+2p&=6 \\ p&=2 \end{align} この $p$ を(4)に代入すると、 $$ a_{n+1}-2=-2(a_n-2) \tag{6} $$ なぜこのような形に変形したのだろうか。答えはこの漸化式はよく知った数列の漸化式だからである。先程は等差数列の漸化式を紹介したが、同様に等比数列の漸化式を考えてみてほしい。すると漸化式は$a_{n+1}=da_n$のようになるはずだ。つまり(6)も $b_n=a_n-2$とおけば等比数列の漸化式の形に帰着できるので漸化式から一般項を求めることができるというわけだ。
ここで1つ気をつけてほしいのが、漸化式から数列の一般項を求めるには初項の情報も必要だということだ。漸化式とはあくまでも数列のある一部分を見たらこのような関係を満たしている、という情報を与えているだけなので、数列の始まり方の情報は別で与えなければならないのだ。なので先程の(3)の一般項を求めるためには初項も与える必要があることに気をつけよう。まあこれは完成した一般項の形を初項を満たすように変形すればいいだけなのだが。
数列に関し、考えたいものの1つに数列の和がある。多項式関数なんかも一種の数列の和と考えることも可能だ。そこで変数を含まない場合の数列の和について考えよう。項が2,3個の場合は書き下しても良いが、項が100個やn個といった膨大な量だったり不定だったりする場合にはこの方法は見通しが悪くなってしまう。まずはじめに和に関する便利な表記を導入しよう。数列 $\{a_k\}$ の初項から第 $n$ 項までの和を次のように表記することにする。 \begin{align} \underbrace{a_0+\cdots+a_n}_{n}=\sum_{k=0}^{n} a_k \tag{7} \end{align} では具体的な数列の場合、和について見ていこう。
等差数列の場合、第 $n$ 項までの和を書き下してみると、 \begin{align} \sum_{k=0}^{n}a_k=a_0+(a_0+d)+\cdots+(a_0+nd) \end{align} 地道に計算しても良いのだが、もっとスマートに計算する方法がある。まず、 $a_n$ はn+1個あることはわかるだろうか。後は $d$ に関する部分の和を計算することができれば等差数列の和の公式ができるはずである。この部分だけ抜き取って考えよう。ここで少し工夫を凝らす。次のように計算をしてみる。 \begin{align} S=0&&+&d&+\cdots+(n-1)&d&+n&d& \\ S=n&d&+(n-1)&d&+\cdots+&d&+0&& \end{align} 上の式と下の式を足すと、 \begin{align} 2S&=\underbrace{nd+nd+\cdots+nd+nd}_{n+1} \\ &=n(n+1)d \\ S&=\frac{1}{2}n(n+1)d \end{align} よって等差数列の和は、 \begin{align} \sum_{k=0}^{n}a_k&=(n+1)a_0+\frac{1}{2}n(n+1)d \\ &=\frac{1}{2}(n+1)\{2a_0+nd\} \end{align} これで等差数列の和の公式を導くことが出来た。等比数列の和の公式は読者のための演習としよう。ヒントは和の定数倍を元の和から引くとほとんどの項を消すことができる。
等比数列の和ここまでで数列について重要な部分はわかっただろうか。最初に数列は$\mathbb{N}\to\mathbb{R}$の写像だと書いたが、実際は終域はどんな集合でも問題ない。$\mathbb{N}\to\mathbb{R}^2=\mathbb{R}\times\mathbb{R}$の写像でも問題ない。数列はその性質によって集合の性質をうまいこと定めることができるすぐれものだ。(本当は集合ではなくもう少し構造の入った概念なのだが扱わない)