命題
論理を考える上で重要なのは命題の概念である。命題とは「その真偽を定めることができるもの」である。例えば「このりんごはおいしい」というのは人によって真偽が分かれるので命題ではない。他には「$x$が実数のとき、$x^2\ge0$である」というのは誰がどう判断しようが正しいことを判断できるので命題である。気をつけたいのは「2は奇数である」というのもはっきりと真偽が決まるので命題だということだ。
命題の逆
条件$p$、$q$について、条件$p$が成り立つときはいつでも条件$q$が成り立つとき、このことを「$p\implies q$」とかき、「$p$ならば$q$」と読む。このような命題があったとき、「$q\implies p$」という命題のことを元の命題の逆と言う。逆の真偽は必ずしも元の命題の真偽と一致しない。例として、「$0\le x\le4 \implies-10\le x\le10$」という命題を考える。この命題は真であることはわかるだろうか。まあ吟味は各々やってもらうとして、この命題の逆を考えよう。逆は「$-10\le x\le10\implies0\le x\le4$」である。この命題は真だろうか。命題の真偽の判定のうち、真であることを示すのは面倒だが偽であることを示すのはとても簡単で、1つでも成り立たないものを挙げれば良い。今考えている命題については $x=-10$ は$-10\le x\le10$だが、$0\le x\le4$ではない。このような成り立たない例のことを反例と言う。つまり、命題が偽であることは反例を1つ挙げればよいのだ。今の場合は $x=-10$ が反例である。
条件の否定
次に否定について説明しよう。条件の否定とは、元の条件以外の状況を示す。条件 $p$ の否定を$\lnot p$と書く。例えば条件 $p$ が「$x\lt0$」というものだった場合、 $\lnot p$ は「$x\ge0$」である。
その他に気をつけたいのは「任意の、全ての」と「ある、~が存在する」の2つの表現である。これらの語句は否定すると互いに入れ替わる。「任意の~」を否定すると「ある~」となり、「~が存在する」を否定すると「全てについて~である」という条件になる。
命題の裏
今説明した否定を用いて、命題の裏というものが考えられる。「$p\implies q$」という命題の裏は、「$\lnot p\implies \lnot q$」である。単純に条件を否定するだけで良い。逆と同じく裏も元の命題の真偽と一致しない。例とすると、「全ての実数 $x$ について$x^2\ge0$である」という命題の裏は「ある実数 $x$ について$x^2\lt0$である」となる。元の命題は言うまでもなく真とわかるだろう。この裏は成り立つ $x$ はないので偽である。
命題の対偶
今までで説明した逆と裏を用いて対偶というものを考えられる。対偶とは元の命題の逆を取って裏を取ったものである。「$p\implies q$」という命題の対偶は「$\lnot q\implies \lnot p$」という風になる。この対偶の真偽は必ず元の命題の真偽に一致する。最初の命題を使ってみよう。「$0\le x\le4 \implies-10\le x\le10$」の対偶は「$x\lt-10,10\lt x \implies x\lt0,4\lt x$」である。数直線を書いて範囲を書き込めば対偶の真偽はよく分かるだろう。
対偶の真偽が元の命題の真偽に一致することを集合の観点から考えてみよう。条件 $p$ を満たすものの集合を $P$ 、条件 $q$ を満たすものの集合を $Q$ とする。このとき $p\implies q$ が真のとき、$P\subseteq Q$が成り立つ。

では$\lnot q\implies\lnot p$を示すためには$\overline{Q}\subseteq\overline{P}$を示せば良いということになる。図示すると、

集合の包含関係から対偶の真偽は元の真偽に一致することがわかっただろうか。このことにより、証明の難しい命題についてはその対偶を取ることによって証明が簡単になることがある。そのため対偶はしばしば使われることになる。
論理和と論理積
続いて2つ以上の命題に関する演算を考えてみよう。命題 $P$ と命題 $Q$ の少なくとも一方が真ならば真となる命題のことを論理和と言い、$P\lor Q$と表す。例えば$P$が「整数 $n$ は偶数である。」$Q$が「整数 $n$ は奇数である。」だったとしよう。このとき$P\lor Q$は「整数 $n$ は偶数または奇数である。」という命題になる。整数は必ず奇数か偶数のどちらかであるので$P\lor Q$はいかなる場合でも真である。
次に命題 $P$ と命題 $Q$ のどちらも真である場合のみ真となる命題のことを論理積と言い、$P\land Q$と表す。先程の例を用いると、$P\land Q$は「整数 $n$ は偶数かつ奇数である。」となる。$P$ と $Q$ の2つが同時に真になることはないので、$P\land Q$はいかなる場合でも偽となる。
ド・モルガンの法則
ここで論理和と論理積の否定に関して便利な法則を紹介しよう。まず、論理積の否定は否定の論理和となる。式で表すと、 $$ \lnot(P\land Q)=\lnot P\lor\lnot Q \tag{1} $$ 同様に論理和の否定は否定の論理積となる。 $$ \lnot(P\lor Q)=\lnot P\land\lnot Q \tag{2} $$ この法則のことをド・モルガンの法則と言う。
必要条件と十分条件
最後に2つの条件間の関係について見ていこう。1つ目は条件 $p$ ならば条件 $q$ が成り立つとき、$p$ は $q$ の十分条件であるという。逆に $q$ ならば $p$ が成り立つとき、$p$ は $q$ の必要条件であるという。そして十分条件かつ必要条件であるようなものを必要十分条件とか、 同値であるとか言う。
例として $p$ が「$-1\lt x\lt4$」 $q$ が「$-3\lt x\le4$」だったとしよう。$p\implies q$については、$p$ は $q$ に含まれるので、真である。逆の$p\Leftarrow q$ は $x=4$ が反例であるので偽である。つまり $p$ は $q$ の十分条件であることがわかる。十分条件という名前は「この条件 $p$ を満たせば条件 $q$ は十分満たされている」と考えると良いだろう。
では先程の場合、$q$ は $p$ のなんだろうか。これも定義に当てはめればよく、$q \Leftarrow p$が成り立つので $q$ は $p$ の必要条件である。必要条件は「条件 $p$ を満たすためには条件 $q$ を必ず満たしていなくてはならない」と考えるとわかりやすいだろう。
最後に必要十分条件の例を見ていこう。条件 $p$ を「$x^3-3x+2\lt0$」条件 $q$ を「$1\lt x\lt2$」としよう。このとき$p\implies q$が成り立ち、$q\implies p$も成り立つので、$p\iff q$である。この2つの条件が必要十分条件だということはわかっただろう。同値な条件というのはとても重要で、直接証明することが難しい命題の同値な命題を見つけることで、そちらを使って間接的に証明することが可能となる。また、2つの条件が必要条件なのか十分条件なのか、あるいは同値であるのか、そのどれでもないのかと言うのは数学を考える上で大事なことが多い。十分条件を必要条件と間違えてしまうと重大な問題につながってしまうかもしれないし、十分条件を必要条件と間違えると、命題が成り立つ他の要素を見落とすことにもなる。読者諸君も条件間の関係に気をつけていただきたい。