関数とは

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黒い箱の話

F君は道ばたに黒い箱を見つけた。F君はちょうど"3"、"5"、"7"を持っていたので、箱に"3"を入れてみると"6"が出てきた。次に"5"を入れてみると"10"が出てきた。 "7"を入れると"14"が出てきた。F君は箱に"4"を入れるとどうなるのか気になったが、今手元には"4"はない。F君はどのようにこの結果を推測すれば良いだろうか。

写像

とまあしょうもない話から始めたが、要するにこの黒い箱が"写像"なのだ。数学的に記述するならば、

写像
写像$f:A\to B$とは集合$A$の任意の元に対して唯一集合$B$の元に対応させる操作のことである。

写像という名前に仰々しさを感じるかもしれないが、レンズのようなものと考えるとわかりやすい。$A$の元を$f$というレンズを通してスクリーンに移すと$B$の元が映る、ということである。このとき$A$を$f$の始域といい、$B$を終域という。大事なことは、$A$の元一つに対し$B$の元は必ず一つしか映らないことと、どんな$A$の元をレンズで映しても必ず何かしらも$B$の元が映るということである。なにか1つでも$A$の元が$B$の元に対応しなかったり、1つの$A$の元に対して2つ以上の$B$の元が映る場合にはこれは写像とは呼べないので注意が必要だ。また、$x\in A$に$f$を作用させて得られる$B$の元は$f(x)$と書く。つまり$f(x)\in B$である。

そしてある$A$の部分集合$X$に対して、$f(X)$を$f$による$X$のと呼び、 $$ f(X)=\{f(x)\in B|x\in X\} \tag{1} $$ 像は集合であることがわかるだろう。また$X=A$のとき、即ち$f(A)$を値域と呼ぶ。逆に$B$の部分集合$Y$に対して、$f^{-1}(Y)$を$f$による$Y$の逆像と呼び、 $$ f^{-1}(Y)=\{x\in A|f(x)\in Y\} \tag{2} $$ である。こちらも同様に集合であることがわかるだろう。像や逆像に関しては必ずしも知っている必要はないが、知っておくと後々の定理の理解に役に立つかもしれない。

全射と単射

ここまでで写像という概念について書いてきたが、この写像をより詳しく分析できるように写像を分類していくことにしよう。

まず写像$f$が値域を全て映すものとしよう。写像全体では$B$の元全部が必ずしも$f$で映した結果となるわけではないことに注意しよう。今考えてるときは、集合$B$の任意の元に対して少なくとも1つ以上の$A$の元を対応させることができるということである。これを数学的に記述すると、 $$ 任意のy\in Bに対してx\in Aがあって、y=f(x)とすることができる。 $$ また先程の像を使っても定義することができて、 $$ f(A)=B $$ と表現することもできるだろう。このような写像のことを全射または上への写像という。

では次に写像$f$が$A$の元と$B$の元が一対一対応をしている場合を考えてみよう。写像全体では$A$の元一つには$B$の元一つしか対応しないが、$B$の元は必ずしも$A$の元一つと対応するわけではないことに気をつけよう(そもそも$B$の元の中にはどの$A$の元にも対応しないこともある)。今考える場合には$B$の元は$A$の元に高々(多くとも)一つしか対応しないということである。数学的に記述すると少しスマートになって、 $$ 任意のx,y\in Aに対し、f(x)=f(y)ならばx=yとなる。 $$ と表現できる(ちなみに逆は写像の定義である)。このような写像のことを単射または一対一の写像という。

ここまでで全射と単射について話してきた。ではこの2つを同時に満たすようなことはあるだろうか? すなわち$B$全体$f$で映され、なおかつ$A$の元と一対一で対応する、ということである。少し考えればわかるが、当然実現可能である。簡単な例だと、恒等写像と呼ばれる自分自身を映す写像がある。これは考えるまでもなく一対一対応で、像は値域と等しい。このような写像のことを全単射と呼ぶ、

逆関数

なぜわざわざ全単射を考える必要があるのか。というのも全単射は非常に性質のよい写像なのである。前にも書いたように$B$の元は必ずしも$A$の元一つに対応するわけではなかったし、そもそも対応するものがないなんてこともある。しかし全単射の場合には$B$の元に対して$A$の元が一つしかないことが保証されている。つまり$B$の元から$A$の元を映す操作を構成することができるのだ。このような写像を$f$に対して$f^{-1}$と書き、逆写像という。当然$f$が$f:A\to B$ならば$f^{-1}:B\to A$である。

逆の操作を構成できることで何か嬉しいことでもあるのかと思うかもしれないが、これは物事を考えやすくなるという利点がある。例えば元々の値だと扱いにくかったり計算が複雑になりすぎてしまうという場合に、全単射の写像を用いてわかりやすい値に変換してから計算を行い、最後にまた逆写像で元に戻す、というようなことが可能になる。物理や数学ではこの考え方は度々出てくるので覚えておくと良いだろう。

合成写像

さて、ここまではあくまでもある集合の元を別の集合の元に対応させる操作一つについて見てきた。しかしその他にも、ある写像$f$を使って$A$の元に$B$の元を対応させ、更にその$B$の元を写像$g$を使って集合$C$に対応させることもできるだろう。この操作をそれぞれ個別にやってもよいが、どうせなら一度に$A$から$C$への写像を考えたい。このような写像のことを合成写像と呼ぶ。今の例の場合$A$の元を$f$で映して更にそれを$g$で映すという合成写像であり、$g\circ f$と書く。このとき$f\circ g$と書いてはいけない。合成写像は作用させる順番が重要である。

たとえば$f:A\to B$と$g:B\to C$という写像を用意する。$g\circ f$は$f,g$の順番で作用させたということだから、$A\to B\to C$という風に写像を構成することができる。しかし$f\circ g$は$B\to C\to ???$となり写像を構成できない。この例を見るとわかるように、$f$の終域と$g$の始域が一致している必要がある。今回は2つの写像を合成したが、当然3つも4つもいくらでも合成することは可能だし、同じ関数を複数合成することも可能である。

関数

ここまで写像というものを説明してきたが、結局のところ関数とはなんぞやということだが、写像について理解してしまえば簡単である。関数とは実数全体から実数全体への写像のことである(まあ時と場合により少し違うこともあるが)。最初の定義のように書くと、$f:\mathbb{R}\to\mathbb{R}$である。ここで$\mathbb{R}$は実数全体の集合である。また枠組みからわかるように、写像で成り立つことは関数でも成り立つが、関数で成り立つことは必ずしも写像全体で成り立つわけではないことに注意しておこう。このことに気をつけつつ、これ以降のページでは基本的には関数を扱っていく。