集合

ここでは関数の深い理解のために必要な集合の概念について解説していきます。

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集合とは

何かを考えるにおいて、考えている範囲をしっかりと示すことは日常でも重要だろう。数学においてもこれは言える。この議論の土台となるものを集合という。

定義:集合
ある条件を使って明確に分類することができる概念の集まり
本当はこの定義は厳密ではないが、物理で使う分にはこの程度の理解で問題ない。

集合で重要なのは、"明確に分類可能"という点である。ただ何かを集めただけでは駄目で、誰が分類しても同じ物にならなくてはいけない。 例えば"うまい食べ物の集合"といっても、人によりうまいの基準は違うのでこれは集合ではない。では"0以上10以下の整数" というのは集合と呼べるだろうか? これは誰が判断しても同じものとなるので集合である。このような集合を$A$とすると、以下のように記述する。 \[ A=\{0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10\} \tag{1} \] 今は$A$の要素をすべて$\{\}$で括った。このような集合の表し方を、外延的記法という。 また、定義のところでも書いたように、集合は何かしらの条件を課していたと思う。なので以下のようにも書くことができる。 \[ A=\{x|0\le x\le10\} \tag{2} \] この表記方法を内包的記法と呼び、$|$の右側に集合の条件を書けば良い。

また、この例のように要素の数が有限の物を有限集合と呼び、要素数が限りなくある集合のことを無限集合という。

集合の要素

ここまでで集合本体を見てきたが、今度は集合の中身について見ていこう。まず、集合の中身一個一個のことを集合のという。 ある$x$が集合$A$の元であることを示すには、 \[ x\in A \tag{3} \] と書く。逆に$x$が集合$A$の要素でないときは、 \[ x\notin A \tag{4} \] と書けば良い。要素が含まれることは$A\ni x$のように書いても良い。先程の例だと、$3\in A$だし、$15\notin A$である。

集合の包含関係

前の説ではあるものが集合に含まれるか含まれないかを記述する方法を示したが、今度は2つの集合の関係について記述する方法を見ていこう。

例えば集合$B$の要素のすべてが集合$A$にも含まれていたとしよう。このとき$B$は$A$の部分集合であるといい、 $$ B\subseteq A \tag{5} $$ と書く。記号の下に線があるが、これは$B$と$A$が同じ集合であることも含む、という意味である。馴染みの記号で言えば$\leq$の下線と同じような意味である。 部分集合という言葉を素直に捉えると、等しい関係は含まれないのではないかと思うかもしれないが、はじめにも示したようにあくまで部分集合の定義は"$B$の要素すべてが$A$の要素がでもある"というだけである。$B$と$A$が等しければ、当然$B$の要素は$A$の要素でもある。しかしときには本当に$B$が$A$の一部分であると言いたいときもあるだろう。そういった場合には、 $$ B\subset A \tag{6} $$ と書き、$B$は$A$の真部分集合という。真に部分であるということだろう。

集合演算

次に2つ以上の集合に関する演算を考えていこう。普通の数では加算や乗算などの演算があったが、集合にもこのような演算があるだろうか? あるならどのような物だろうか。まあ集合は数ではないので私たちの普段使っているような数と同じ計算ができるわけはない。だが似たような演算は多くある。

まず重要なことを確認しておこう。当たり前のことだと感じる人も多いだろうが、集合の演算の結果は集合である。数の計算も結果は数なのでこのことからもわかるだろう。このことを念頭に置いて演算を考えていく。

はじめに、"2つの集合$A$と$B$の両方に含まれる元の集合$C$"を考えよう。これは集合$A$、$B$から新たな集合$C$を得ているので演算である。このことを、 $$ C=A\cap B \tag{7} $$ と書く。この集合$C$のことを$A$と$B$の共通部分と呼ぶ。積集合と呼ぶこともあるらしいが、この呼び方は後で紹介する演算とややかぶり気味な気がするので私は好きではない。

次に"2つの集合$A$と$B$の元を全て集めた集合$D$"を考えよう。これも同様に演算であることがわかるだろう。この演算の表記は、 $$ D=A\cup B \tag{8} $$ である。この集合$D$を$A$と$B$の和集合という。これは数の和によく似ている。

和とよく似た演算があるならば差とよく似た演算も考えられると思うだろう。実際に差集合というものがある。これは"$B$の元であって、$A$の元でないものを集めた集合"であり、 $$ B\setminus A \tag{9} $$ と書く。定義からもわかるように$A$と$B$を交換すると結果は変わってしまう。

次の演算を考える前に1つ新たな概念を導入しよう。はじめに議論の土台としての集合を説明した。この集合のことを全体集合と呼び、最初に全体集合が与えられればそれ以降の議論で出てくる集合はすべて全体集合の部分集合となっている。全体集合は$U$で表すことも多い。 全体集合を導入したことで、"集合$A$の元以外のものの集合"を考えることができる。この集合を補集合といい、$\bar A$や$A^c$と書く。また補集合の定義から、 $$ \bar A=U\setminus A \tag{10} $$ ということもわかるだろう。

最後にこのような集合を考えてみる。 $$ E=\{(x,y)|x\in A かつy\in B\} \tag{11} $$ この集合を直積集合とよび、$A\times B$と書く。分かりづらいがこの演算は交換すると結果は変わる。これらがおおよその集合演算である。今は2項演算だったが、一般に複数項でも計算できる。

勘のいい読者は気づいたかもしれない。次のことを考えてみよう。 $$ A=\{0,1,2\}, B=\{3,4,5\} $$ $$ A\cap B=? $$ 共通部分の定義は$A$と$B$の両方に含まれる元の集合だった。しかし今の場合は$A$、$B$両方に共通して含まれる元は存在しない。ではこの演算は成立しないのだろうか? そんなことはない。このような元が一つもない集合のことを空集合と呼ぶ。空集合は"$\emptyset$"と書く。数学的なことを話すと、集合論では最初に導入される集合が空集合なのである。このように数学を構成していく学問を公理的集合論というのだが、これはとても複雑で難解なところがあるので気が向いたら記事を書くことにする。